一を聞いて十を知る。そもそも一も伝えていないのでは?

ある日、
レジェンドが待合室で
患者さんのトリアージをしていた。

俺は操作室から、
その様子を覗いていた。

畏れ多い。

思わず隠れた。

しかし、そこはレジェンド。

俺が覗いていたことなど、
一瞬で見透かされていた。

レジェンドが俺に手を挙げた。

集合のサインだ。

仕方なく、
レジェンドのもとへ向かった。

レジェンドが俺に問う。

「どうだと思う?」

試されている。

そう感じた。

患者さんは転倒し、
右の顔が腫れていた。

俺は慎重に声をかけながら、
患者さんの顔に触れていく。

おでこ。

目の周り。

目の下。

「痛い」

患者さんが言った。

場所は頬骨だった。

するとレジェンド。

「頭?」

またしても試されている。

「頬骨でいきます」

そう伝え、
頬骨のレントゲン撮影を始めた。

するとそこへ、
レジェンドとは別のベテラン看護師が
照射録を持ってきた。

撮影オーダーを確認すると、

胸骨2方向

と書かれていた。

……なるほど。

俺は撮影を終え、
照射録の胸のあたりに線を引き、
頬の撮影に訂正した。

そして、
ベテラン看護師に伝えた。

「漢字、間違ってますよ」

ベテラン看護師は俺に謝り、
レジェンドにも平謝りしていた。

するとレジェンド。

「いいのよー」

さすがはレジェンド。

器が広い。

感心して言葉が出ない。

長年、外来を支えてきた大ベテラン。

多少のことでは動じない。

その懐の深さには、
ただただ感服するばかりだ。

おそらく、
レジェンドから口頭で伝えられたのは
「きょうこつ」だったのだろう。

胸骨なのか、頬骨なのか。

その言葉から正解を導き出す。

言葉の奥にある意味を読み取り、
正しい漢字まで見抜く。

なんという高度な医療現場。

一を聞いて十を知る。

さすがはレジェンド。

俺もいつか、
その境地にたどり着きたい。

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なぜ逆さま?

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